事業分野における成功要因 (99年11月)

(社) 中小企業診断協会富山県支部

工場経営者の繁田社長は、前回の経営指導で経営戦略立案にあたっての第一のポイントが、「成長性の高い事業分野を明確に意識すること」をいくつかの事例を通じて今野先生から解説頂いた。自社の属する事業分野が成長性の高い事業分野に属しているかどうかによって、会社の成長度合いがほとんど決まってしまうからである。
 自社の事業分野の規定が見直されると、次に重要なことはその事業分野における成功要因を探索することである。今回は、繁田社長が、今野先生からこの成功要因についての指導を受けている場面である。

繁田 先生、前回のお話で事業分野の考え方が大変勉強になりました。
 
今野 いえ。繁田社長の会社の事業分野規定が見直されると、次に大切なことはその事業分野における成功要因を見出すことです。
 
繁田 その"成功……"とは何ですか。
 
今野 成功要因とは、その事業分野であなたの会社の収益確保や成長を決定づける根本的な要因のことです。
 
繁田 う〜ん?やさしく説明願います。
 
今野 それでは、ある外食産業を例にとって考えましょう。仮に今、ある外食産業の会社の経営者が、自社を何とかして大きく成長させたいと考えて、既に急速に成長している立派なレストランを見学に来たとします。この経営者が最初に気づいたことは、レストランの店員の態度がたいへん良いということです。「我が社のお店も、こういうふうに改善しなければならないな。」とこの経営者は感じました。
 
繁田 自分の店と比較して、接客態度が非常に感じ良いのですね。
 
今野
 
 
 
 
 
席に着くとすぐに店員がメニューを持ってきました。そして、メニューを見ると、さらに重要なことに気が付きました。この店のメニューはたいへん豊富で、「これだけ品数が豊富であれば様々なお客様がこのレストランを利用されて満足されるだろう。」と。
 
繁田
 
同感です。メニューの開発には力を入れなければならないと思いますがね。
 
今野
 
 
 
 
さらに注文をして待っていると、わずか数分の間に注文した料理が運ばれてきました。「こんなに早くサービスができるのならお客様がどんどんきてくれるに違いない。」とまたそこで感心しました。
 
繁田
 
 
先週、家族でファミリーレストランに食事に行ったのですが、長く待たされてうんざりでした。
 
今野
 
 
 
 
それはたいへんでしたね。さて、料理を食べてみるとたいへん美味しい。やはり料理は味が大切だとも感じました。結局、この経営者は4つのことについて感心し、自分の店に帰って、これらのことを改善しようと考えました。
 
繁田
 
 
4つとは、"接客態度"、"メニュー"、それとう〜ん、"長く待たせないサービス"、そして"美味しい味"のことですか。
 
今野
 
 
 
そうです。この経営者は外食産業の成功要因として、この4つを考えましたが、これを指導し改善したとすると、この会社は大きく成長できると思いますか。
 
繁田
 
 
それを徹底してその経営者の店で実行すれば、以前より収益も上がると思いますが。
 
今野
 
 
 
確かに。しかし、それは一つの店が一時期改善されるにすぎません。実は、これら全ての事項が満たされたとしても、この会社は決して大きく成長することはできません。
 
繁田
 
う〜ん、なぜですか。
 
今野
 
 
なぜならば、レストラン業界、外食産業における成功要因はそれら4項目の中にはないからです。
 
繁田
 
では何が成功要因ですか。
 
今野
 
 
 
 
 
 
『一つの店が繁盛する条件』と、『それから多店舗展開をしていき企業が成長する条件』とは全く異なるのです。つまり、外食産業という分野で次々と店舗展開し、大きく成長しようとする場合、獲得すべき成功要因はおそらく"自分の店をどのような場所につくれば良いかという立地についてのノウハウ"であると考えられます。
 
繁田
 
 
なるほど、好ましい立地を次々と見つけ出すという力が備わりさえすれば、その会社は大きく成長するのですね。
 
今野
 
 
 
 
たとえ、最高のサービス、目を奪われるような多彩なメニュー・品揃えでなくとも、次々と店舗開設に好ましい立地を見つけ出せれば、ある程度のサービス・メニュー・接客態度で臨める店をつくるだけでその会社は大きく成長できるはずです。
 
繁田
 
 
 
そうか、一つの業種には成功要因と思われるものがいくつかあるが、本当の成功要因を満たさない限り、その企業は成功しないのですね。
 
今野
 
 
 
 
 
 
 
 
さらに、この成功要因というものは業種によって異なるだけではなく、その業種の中においても規模によって大きく異なるのです。従って、自社の属する事業分野の成功要因を探索するポイントは、
1)同業種に属している企業で、
2)同じ位の規模の、
3)成長しているライバル企業を見出し、その成功要因を調べることです。
 
繁田
 
 
いや〜、成功要因って、ほんとうに精巧なものなのですね。
 
                 (中小企業診断士 江幡博和)



インデックスに戻る