不況はチャンスか? (99年3月)

(社) 中小企業診断協会富山県支部

 
 
 

今野 繁田社長、久しぶりにお会いしましたが元気ないですね。
 
繁田 今野さん、フーテンの寅さんのタコ社長じゃありませんが、この不況では打つ手無しです。今はただただ経費を押さえて景気の回復を待つばかりですよ。
 
今野 そうですか。… それでは今日は繁田社長に元気を出してもらうために、この不況を逆手にとっている会社の話をしましょう。
ある業界の老舗の会社で今進行中の話です。その会社は長い間誰でも知っている商品を作ってきて、そこそこの売上と抜群の知名度を持っていましたが、商品が成熟しており長い間売り上げも頭打ちでした。実際、業界内でもお金はあるが、遅滞している会社というイメージが定着しており、社内も新しいことに挑戦する活力のようなものが希薄になっていました。
ところが、昨年あるベンチャー企業の技術を導入し数十年ぶりに最先端の技術を使った新製品を発売し、ニッチマーケットであっという間に名だたる競合を押さえてシェアがトップになってしまいました。その結果、十年近く変動がなかった株価は2ヶ月で3倍以上になりました。
 
繁田 ずいぶん景気のいい話ですが、私にはあまり縁がないようですね。
 
今野 これからが本題ですので、そう言わずにもう少し付き合ってください。その会社にとっても、未知の技術を採用してここまで来るのは簡単なことではありませんでした。昨年の暮れまで、担当部署は発売時期に間に合わせるために徹夜の連続で、無理がたたり今年に入って半数近くの人がインフルエンザでダウンしたほどです。それでも新しいことに社内が一丸となり挑戦し、商品を世に送り出したことにより社員一人一人の士気が驚くほど高まりました。勝つ喜びを味わったことにより、ほんの何ヶ月かで社内の雰囲気はがらりと変わり活気に満ちています。
その会社のトップはそのことだけでも、挑戦した甲斐があったといっています。しかし商品開発に取り組むときは、強力な競争相手がいるマーケットですので常に技術の革新とコストの引き下げを要求され、シェアがトップになったとしても、その後でそれを維持して行けるか心配していました。
 
繁田 その通りです。普通は一発勝負を掛けそれに勝っても、その後が続かなくなることが心配で新しいことに挑戦できないのですから。
 
今野 ところが実際にトップシェアを取ってみると、思ってもいない展開が開けてきたのです。
まずこれまで付き合いのなかった部品メーカーが、次々とより高性能でコストの安い品物を向こうから売り込んでくるようになりました。それだけでコストがかなり下がって行きました。
さらに新しいモデル開発も、ソストウエアー開発会社やエンジニアリング会社が、数年前なら考えられないような安い価格と速い納期で売り込みを掛けてきており、この不況のおかげで期待をはるかに上回る強力な開発組織ができつつあります。
そして何より有り難いことは、マーケットと業界の情報がすべてトップメーカーに集まり出したことで、競合が何時頃どのような新製品を出す見込みかとか、ある部品は何時頃どんな新技術を取り入れたものが発売されるか等、戦略立案に必要な情報を苦労せずに集めることができるようになりました。この会社は近いうちに次々に新製品を発売し、マーケットでの地位を不動のものにするでしょう。
この商品に取り組むときの、その会社のトップの決意は並々ならぬものでした。それを社員が感じ取り全員が一丸となってトップメーカーになったのですが、今の世の中はトップになると更に強くなる力学が働くようです。
 
繁田 なんともうらやましい話ですね。
 
今野
 
 
 
繁田さん、うらやましがってばかりいないで、会社が変わるにはまずトップの並々ならぬ決意ですよ。
 
                            (島田 秀喜)



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