事業分野再考 (98年11月)

(社) 中小企業診断協会富山県支部

今年度は、天下の某メーカーをはじめ超大手企業も大変な業績悪化で赤字転落という。繁田社長の会社は今年度なんとか利益を出せる見込みだが、減収減益予測のため今後の進む方向に対して大変な危機感を抱いている。

繁田 今野先生、今年度は大手有名企業ですら赤字と大変です。最近、私の会社もどういう方向へ行けばよいのか悩んでいます。
 
今野 それでは、事業分野について考えてみましょう。あなたの会社は何屋さんと考えていますか。
 
繁田 何屋って、ご存知のとおり決まっているじゃないですか。
 
今野 繁田社長の属する事業分野が成長性の高い事業分野に属しているかどうかはたいへん重要な意味を持つのです。事業分野規定をどう定めるかによって、あなたの会社の成長度合いがほとんど決まってしまうからです。
 
繁田 イメージがわきませんが…。
 
今野 テレビが普及しはじめた頃のアメリカ映画産業の話をしましょう。
 
繁田 かつて黄金時代を築いたけれどテレビが生まれてからは急速に斜陽化して映画会社は次々と倒産したことはよく知っています。
 
今野
 
 
 
一般的には映画会社が没落した原因はテレビの出現と言われています。実は映画会社自身が事業分野を限定したことが、真の没落の原因と考えられます。
 
繁田
 
どういうふうに限定したのですか。
 
今野
 
 
 
 
 
「テレビのようなチッポケな画像に映画の迫力・魅力が負けるはずがない。本当に良い映画をつくれば、お客は必ず観に来てくれるに違いない。」と考え、制作費を十分にかけて豪華なセットで最高の俳優を使って映画を制作しました。しかしそれに見合う観客を動員できず、赤字となったのです。
 
繁田
 
 
たしか、テレビが出現した頃は、ボーリング場やダンスホールなど娯楽の多様化が進んだ時代だったと思いますが。
 
今野
 
 
 
 
 
そこです。「映画も娯楽の一つにすぎないのだ。映画会社は世の中の変化に合わせて、娯楽を提供できる会社にならなければならない。」ということに気づくべきだったのです。そして、映画会社から娯楽提供会社へと脱皮を図らなければならなかったのです。
 
繁田
 
娯楽提供会社への脱皮か。
 
今野
 
 
 
 
たとえば、「これから普及しようとしているテレビに対して映画会社は何ができるか」を考えたら、テレビ業界に面白い番組をつくって提供でき、テレビの発展と共に第二の黄金時代を築く絶好のチャンスだったはずです。
 
繁田
 
過去の映画会社にこだわり過ぎたのでね。
 
今野
 
 
 
そうです。自分の会社の商品を映画そのものに限定してしまい、顧客範囲も映画館に来る人のみに限定して考えた結果、成長・発展する機会を失ったわけです。
 
繁田
 
 
なるほど。ところで私どもみたいな中小メーカーはどう考えればよいのですか。
 
今野
 
 
 
 
 
紙箱の印刷メーカーA社は、従来の顧客からの注文が減少してきていたので、現在より成長性のある事業がないかと検討しました。その結果、自分の会社を「紙箱メーカー」と考えることをやめ、「食品の携帯・保存用品を提供する会社」であると考えることにしました。
 
繁田
 
それで結果は?
 
今野
 
 
 
その事業分野の規定に基づいて、テイクアウト商品や冷凍食品メーカーに向けての受注活動が活発に行われ、外食産業の成長の波に乗って大きく成長しています。
 
繁田
 
そうか、成長の波にね。
 
今野
 
 
 
 
 
 
 
もう一例。木工機械のボール盤メーカーB社は、木工業界の成長鈍化のため、自分の会社を「木工機械製造業」という捉え方をやめて、我が社は「穴あけメーカーである」と考えました。そこで、木材に限定せず、あらゆる素材に穴をあけることができる技術の研究に取り組み、種々の素材に種々の精度で穴あけをする機械を次々と開発し、ユニークな企業として発展しております。
 
繁田
 
 
ん〜。今度は、『穴をあけるという機能・働き』に焦点を絞って事業定義をしたのですね。
 
今野
 
 
 
 
 
 
 
そう、このようにあなたの会社の事業分野を規定する場合、
 
1)現在の商品・顧客に限定しない
2)現在提供しているサービスを拡大あるいは小さく絞り込んで考える

ことがポイントです。
 
繁田
 
 
いやいや〜、先生。事業分野ってのはほんと〜うに大切なものですね。よくわかりました。
 



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