中小企業診断協会／富山県支部

■米国ベンチャービジネス事情　(98年4月)

(社) 中小企業診断協会富山県支部

●今野			繁田社長、久しぶりにお会いしましたが元気ないですね。
●繁田			今野さん、世間で問題になっている銀行の貸し渋りの影響をもろに受け開発資金調達に苦労しているんです。
●今野			貴社のような研究開発型のベンチャー企業は売り上げを上げるまでに多額の研究開発費を必要としますが公的資金だけではまかないきれず、しかも担保になる資産はあまりありませんので、今のような状況でのダメージは大きいですね。
●繁田			今野さんは米国のベンチャー企業の事情に詳しいけど、うちの開発中の技術は世界でも最高レベルですので、米国のベンチャーキャピタル（VC）やエンジェルから資金を集めることはできないでしょうか。
●今野			米国で資金調達するのは競争が大変ですよ。私の知っているシリコンバレーの大手VCの投資担当者は一人で年間数十億円の投資をまかされています。彼の場合確かな紹介者がいる有望な会社の申し込みだけを受け付けていますが、それでも月平均1,200件申し込みが来て、その中で実際に投資するのは2～4件だそうです。どこのVCも同じようなものですから、私がしっかりした会社だと推薦しても投資してもらえる確立は0.5％以下です。まして紹介なしで申し込んでは受け付けてももらえませんよ。
●繁田			とんでもない競争率ですね。どんな基準で選んでいくのですか。
●今野			簡単に言うと、企画内容（ビシネス・プラン＝BP）とともにいかに優秀な人が参加しているかが最大の要因になるそうです。
●繁田			うちも優秀な人材を集めるのに苦労しているんですが米国ではどうやって優秀な人材を集めるのですか。
●今野			ベンチャー企業が最初から高給を払うこはできませんので、ストックオプションで人を集めることになります。
●繁田			興味深いですねえ。もう少し詳しく教えてもらえませんか。
●今野			ストックオプションを最も効果的に使っているのはマイクロソフトといわれています。ハーバードでMBAをとった私の友人が３年前にマイクロソフトに引き抜かれました。その時彼の給与は前いた会社の5分の1になったのですがストックオプションをもらったことで転職を躊躇しなかったそうです。実際彼が今ストックオプションを行使すると1億円以上のお金を手に入れることができるそうです。一般のベンチャー企業の場合も、経営が軌道に乗ると創業者は会社を公開するか、売却します。いずれの場合でもそのとき、創業時からストックオプションで参加したメンバーは数億円を手にするといいます。この魅力に引かれ優秀な人材が集まるのです。昨日私の知り合いから会社を約60億円で売ったと連絡を受けました。それを創業者、VCなどの投資家、そしてストックオプションで雇われた従業員で分けるそうです。彼がパートナーと会社を起こしたのは3年前です。しかも彼はまだ32歳で働いている人たちの平均年齢は20歳台なんですが皆が何億ものお金を手にすることになるそうです。
●繁田			うちもさっそくストックオプションを考えなくては。
●今野			繁田さん、ストックオプションは人材を集める打ち出の小槌ではありませんよ。働くほうにとって会社が成功して始めて魅力的なものになりますが、成功しなければただ働きに近いことになります。ですから、優秀な人材であれはあるほど働く企業を厳しく選別します。魅力のない会社は相手にされません。
●繁田			結局会社の持つ可能性ですね。彼らはどんな基準で可能性を判断するんですか。
●今野			実際に働いている人たちに直接聞いてみると、BPと事業をリードしていく人たちの能力で、最後に決断の決めてとなるのは誰が経営しているかだそうです。
●繁田			自分たちの将来を賭ける基準はボスの能力ですか。
●今野			何人もの経営者に会いましたが、VCから投資を受けるような会社の経営者は皆すばらしい人たちです。誰にでもビジョンを明確に説明し、無駄な出費は一切せず、事業が行き詰まるたびに強力なリーダーシップでそれを乗り越えていきます。週平均の執務時間は80時間を超え、開発が佳境に入るとオフィスに寝袋を持ち込んで、社員を鼓舞しながら先頭に立って事業を引っ張っていきます。またベンチャー企業ではドッグイヤーと言って1年が通常の会社の7年分に当たるとよく言われますが、本当に先端にいる人たちは1日が普通の人の1月分に値するといいます。ですからそういう人たちと30分会うのでもなかなか大変ですよ。
●繁田			優秀な経営者が全てのキーですか・・・・・。今野さん、ストックオプションでうちの会社の経営をしてもらえませんか。
●今野			・・・・・　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（島田　秀喜）

｜インデックスに戻る｜