■リスクマネジメント (98年2月) |
(社) 中小企業診断協会富山県支部 |
福島社長(洋装品店主)は、不況の風が吹く中、独自の品揃えを武器に売上を伸ばしている。さらなる売上増大をはかるため福島社長は新規出店を行った。以下の会話は、新規出店準備中の福島社長と今野コンサルタントの会話である。 |
●福島 |
当社もこれで5店舗目の出店となります。ここまでこれたのは先生のお陰です。 |
||
●今野 |
いえ、福島社長の力ですよ。さて、今回の出店の総投資額はどうなりました。 |
||
●福島 |
先生の指導の通り、ROI(リターン・オン・インベストメント、報酬対投資額比率)を高めるため、今までの自社ビル展開から賃借(テナントとしての入居)方式に変えたので、投資額を押さえることが出来ました。 |
||
●今野 |
目まぐるしく変化する現代は、客が飽きないよう店舗を比較的短期間でスクラップ&ビルドする必要があります。つまり、投下資本をそれこそ5年程度で回収しなければ、リスクが大きくなります。 |
||
●福島 |
「投下資本回収率を20%以上にせよ」という先生の口癖ですね。 |
||
●今野 |
その通り! ところで、今回の店舗のショーウインドウは、立派ですね。 |
||
●福島 |
店格を上げるために、このショーウインドウは、どうしても必要でした。 |
||
●今野 |
店は道路に面していますし、シャッターもないので車がはねた石などが飛んできて割れるリスクがあるんじゃないですか。 |
||
●福島 |
600万円もかかったショーウインドウです。割れたら大変なので、ガラス保険に入ろうと思っています。 |
||
●今野 |
保険に入るときも注意が必要です。保険には、新価と時価という考え方があって、時価で契約した場合(何も言わないと時価契約となる事が多い)には、「保険上の減価償却額(税法上とは一致しない)」が差し引かれるため、3年後にショーウインドウが割れた場合、450万円程度の保険金しかでませんよ。 |
||
●福島 |
必ず、新価で保険に加入しなければなりませんね。 |
||
●今野 |
それと、福島さんや従業員がガラスを割ったときでも保険金が必要ならばガラス保険となりますが、保険料が高いので、火災保険での加入を検討してみてはいかがですか。 |
||
●福島 |
火災保険だと、火災以外で割れた時は、保険金が出ないのでしょう? |
||
●今野 |
いえ、盗難や車のはねた石などによってショーウィンドーが割れた時でも保険金が出ます。 |
||
●福島 |
え! 本当ですか |
||
●今野 |
店舗総合火災保険で設備什器を対象にし、新価特約をつけ、設備什器にはショーウインドウを含むと明記した保険なら大丈夫です。しかも、保険料はガラス保険に比べ約40%安く、保険金も600万円全額が出ます。 |
||
●福島 |
火災保険てすごいですね。他の店舗の保険もすぐ見直しを行わなくては・・ |
||
●今野 |
そうですね。でも、何でもすぐ保険に結びつけるのではなく、リスクマネジメントをしっかり行なうことが大切です。これは、リスクがどこにどんな形で存在するのか調査し、その発生頻度を測定し、ある程度の費用でリスクの軽減化が図れるなら、それを実行し、リスクの制御を行うことをいいます。その上で、リスク制御が不能なもの、或いはリスクが大きいものについては、保険などでリスクを転嫁します。 |
||
●福島 |
先生がROIを20%以上にしろといわれるのも、時代のスピードに対するリスクマネジメントの一つと考えられますね。 |
||
●今野 |
冴えてきましたね。以前は、借金してでも資産を増やせば、将来含み益が発生し、経営が安定すると考えられていました。しかし、今の時代は、仮に以前と同じ現金回収(税引後利益+減価償却費)でも総資産を圧縮し、経営の効率化を図らないと、生き残れないでしょう。 |
||
●福島 |
我々中小企業は、銀行のように不良債権が処理できないからといって、公的資金(優先株)で助けてくれませんからネ。「自分で犯したリスクは、自分で負う」を忘れずに、知恵を絞って、この不況を乗り切りましょう。 (アーム興産取締役 五十嵐 雅文) |