戦略的中期経営計画の必要性と内容 (97年12月)

(社) 中小企業診断協会富山県支部

工場経営者の繁田社長はこれまで利益目標に基づいた経営計画を立てることにとって確実に利益をあげてきた。しかし、円高による親会社の海外移転等により突然売上が半減。そこで繁田社長は、経営コンサルタントの今野氏に相談をもちかけた。

繁田 今野先生、最近は銀行などの金融界すらも倒産の声を聞きます。当社も人ごとではないですよ。
 
今野 確かに繁田社長の会社とて同じ運命をたどらないとはいえません。ここらで、企業を存続させ、発展させていくには、どのようなことが必要なのか、改めて真剣に検討する必要がありますね。
 
繁田 毎年、目標とする利益を確実に上げ、資産を蓄積することです。
 
今野 その考え方には大きな落とし穴があります。現在ある程度の利益を上げていても、環境が自社に不利な方向に動けば、これまで蓄積した資産を一挙につぶすことが十分起こりうるからです。
 
繁田 次々とヒット商品を開発し、それが原動力となって成長している有名企業がたくさんある。技術力があれば安泰でしょう。
 
今野 確かに、技術力があれば、企業が成長し発展することは容易に想像出来ます。しかし、技術力があっても環境に適応出来ないまま倒産していった企業が数多く見受けられます。
 
繁田 "利益や資産"でもなければ、"技術力"でもない。とすれば、残るのはやはり人材ですか。
 
今野
 
 
 
 
 
冷静に現実を見れば、この人材でもないと言わざるをえません。昔から「企業は人なり」といって、多くの経営者が、人材の獲得や育成に努力してこられました。そして、"優秀な人材"を多く抱えるようになりながらも、伸び悩んでいる企業がかなり存在します。
 
繁田
 
それでは他にありますか。
 
今野
 
"戦略的な中期経営計画"です。
 
繁田
 
それはどういうことですか。
 
今野
 
 
 
 
 
 
企業の存続・発展には、経営環境の時々の変化にうまく適応していくことが不可欠です。つまり、企業は環境適応業でなければなりません。そのためには、その時代に適した正しい経営戦略を打つことが最も大切。そして、自社が抱えている様々な制約条件は、解除できる対象として一切排除する決意をもつことです。
 
繁田
 
 
当社も利益や売上目標を設定し、その実現のために中期経営計画をたててきましたが、・・・
 
今野
 
 
 
 
そう、それは一般的な中期経営計画ですね。ここでいう中期経営計画とは、「いかなる環境の変化にも適応していける企業体質を作り上げること」を目的としたものです。両者では根本的において全く違うのです。
 
繁田
 
う〜ん、"環境適応業"、そのための"企業体質作り"か。
 
今野
 
 
 
一般的には「利益を上げることが最優先。従って中期経営計画も利益確保に向けて作れば良い」と短絡的に考えられますが、この考え方は正しくないのです。
 
繁田
 
少し具体的に説明して下さい。
 
今野
 
 
 
 
 
 
 
 
R社の倒産を一つの事例としてあげます。R社は売上高の数字にこだわりすぎたために、売上高が容易に上がるOEM供給に依存し、自社の技術力を高めるとか、生産力を強化するとかいった、本当の意味での企業体質の強化をしなかったのです。売上、利益といった数値を追いかけていく中で、その仕事の中身の管理がおろそかになっていた訳です。つまり、利益達成を重視するあまり、経営体質の改善を二の次としたためです。
 
繁田
 
なるほど、では体質を強化して成功した事例などは。
 
今野
 
 
 
 
 
 
 
 
Y社は、今でこそ当たり前になった「宅配便」を私企業として初めて事業化した企業です。宅配便に進出した時の様子は惨澹たるものでした。企業の運命を賭けて進出を決めた事業だけに、絶対成功させなくてはいけない。その決意を持って首脳陣は、目先の利益を度外視しても、思い切った施策を打ちました。大口顧客から撤退し、小口輸送に徹したり、将来を考えて、全国配送ネットを構築するために思い切った先行投資を実施したのです。
 
繁田
 
 
目先の利益を度外視してでも、経営体質の強化を図ったのか。
 
今野
 
 
 
 
そうです。実はこれが、一般的な中期経営計画と戦略的な中期経営計画の違いなのです。繁田社長が目指すべきものは、いかなる環境にも適応しうる強靭な企業体質です。この企業体質こそ"本当の利益"ですね。
 
繁田
 
 
 
当社も本当の利益が欲し〜い!
 
                           (江幡 博和)
 



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