部下をつぶしていませんか (97年10月)

(社) 中小企業診断協会富山県支部

経営コンサルタントの今野さんが繁田社長の工場を訪れたところ、社長はなぜかカリカリしていた・・・。

繁田 ・・いや、先生の前でお恥ずかしい。部下が、次の工程の管理までやりたいなんて言うから・・。
 
今野 それは、有難いことです。意欲と余力の現れで、たとえ失敗してもこれを前向きに受けて、信頼してその権限を与えることは、部下の能力の発揮と開発にもって来いで、全体組織の活性化につながります。
 
繁田 うーむ。これを受け入れるということは、ある面からみると「目標管理」ということになるんですね。持てる知識・技術・技能と実績や見通しのもとに自らの目標を設定し、自らその結果を確認・分析し原因を明らかにするという経営参加の手法なんですね。
 
今野 そうなんです。また、これを受け入れることは、部下が会社の人事管理の対象であると同時に当事者であるわけで、マズローのいう生理的欲求→安全の欲求→社会的欲求→自我の欲求→「自己実現欲求」を満たしてやることにもつながるのですよ。
 
繁田 そういえば、上司に遠慮や不安や恐怖心を抱かせることのないように、部下に対して対等に意見を発表させたり、感情や能力を出す機会を与えたり、大きな心で異見に耳を傾けてやるということは、「ヒューマン・リレーション」を高めることにもなるわけですね。加えて、公私に亘る悩みや問題点の解決、一層の意思疎通策に意をそそがなければならないわけですね。
 
今野 よくご存知で。さらに言えば、このことを、無謀な希望を出してきたとか、せっかく落着いている組織体制を乱すことになると受け取るならば、部下のせっかくのやる気が不満に変わってうっ積し、部下の結束が失われ生産性が落ち、はたまた退社していったりして・・。このようなことにならないために、上司は、よき「リーダーシップ」を発揮しなければ。これには、部下に直結する事項の決定に参加させ、創造性を出させて高め、問題意識を強く持たせ、一体感をつくりあげ、モラールを向上させるという民主的リーダーシップが一般的には良いとされ、他に自由放任と専制リーダーシップがあって、その組織体制によって適宜に使い分ける必要がありますよ。
 
繁田 なるほど、思い出しましたが、これを前向きに取り入れることは、中・長期的に部下をキャリア・アップさせる「職務設計」にも通じますね。それは、同一反復作業で生ずる未利用・不衛生な身体的機能の回復を計り、作業の復権と自立性低下防止をもたらす職務拡大と、ある一定期間を区切って他の職務に計画的に順次移動させてゆくことによって、企業全体の知識を広めたり従業員間の信頼関係を回復させる職務転換と、目標・計画の設定段階にも主体的に参画し、実行した結果の統制・評価の段階において自らそれを行う職務充実を内容としているそうです。
 
今野
 
 
 
そうなんです。よく知っておられますね。これらの他に「提案制度」も考えられます。大切なことは、これを実行するということです。
 
繁田
 
 
 
 
 
 
 
そう考えてくると、まず先に、私が日頃言っている"君、よく考えたのかね"、"誰がこんなこと考えたんだ"、"まあ検討しょう"、"新しすぎるよ"、"理屈はそうだが"・・という部下への短絡的な殺し文句から止めなければなりませんね。その上で次に、部下にやる気を起こさせ働き甲斐を与えるこのような手法を駆使することによって、部下を最大限に生かしてゆくことが大変に重要なわけですね。
 
今野
 
 
 
 
その通りです。これで繁田さんの会社の人事管理の一つは順風満帆ということになります・・・。
 
                             (北崎 進)
 



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