戦略的な人事 〜生産性の向上のために〜 (97年8月)

(社) 中小企業診断協会富山県支部

労働時間の週40時間への取り組みを機会に、会社の経営改善に取り組み始めた繁田社長。今日は人事制度について経営コンサルタントの今野氏に相談を持ちかけた。

今野 こんにちは、繁田社長。労働時間も週40時間となりましたが、対応はうまくいってますか。
 
繁田 これは今野さん、ちょうどいいところにこられました。実はまた相談に乗ってほしいことがあるんです。
 
今野 そうなんです。私はいつもちょうどいいところに現れることになっているんです。
 
繁田 ・・・・・・・・・。
 
今野 ところで相談ってなんですか。
 
繁田 労働時間が短くなったのに今までと同じように仕事をしていたら、当然コストアップになってしまいますよね。今まで以上に作業効率を上げ、生産性を向上させなければなりません。
ところが、それを十分理解し工夫もして、一生懸命やってくれる従業員もいれば、相変わらずマイペースな者もいるんで弱っているんですよ。
 
今野 それは困りましたね。それで、社長はそれについて何か考えがあるんですか。
 
繁田 私としては、この際人事制度を実力・能力主義的なものにして、年齢に関係なく、よくやってくれる者とそうでない者との差をつけようと考えているんです。それが刺激になってみんなが頑張ってくれればと。
 
今野 なるほど、生産性を上げるために、まずは人事面からアプローチしようというわけすね。
 
繁田
 
 
 
 
ところが一口に実力・能力主義の人事制度といってもいろいろなものがありますよね。
最近では、成果・業績主義や年俸制といったものまで様々で、悩んでしまいます。
 
今野
 
 
 
 
 
 
それは逆に言えば、産業構造が変化し、終身雇用に代表される日本的雇用形態が崩れ、以前のような一律集団管理的な人事制度では対応できなくなってきたということじゃないでしょうか。
大事なことは、形にとらわれず自分の会社に一番適した制度は何かをしっかり見極めるということです。
 
繁田
 
それって、どういうことですか。
 
今野
 
 
 
 
 
 
これからは、人事も戦略の時代です。経営戦略とリンクさせ、経営目的を実現するためには、どういう人材をどう採用し、評価し、処遇するのか。能力開発はどうするのか。そういったことをまず考えなければなりません。
 先に戦略ありきであり、制度はそれを実現するための手段だということです。
 
繁田
 
なるほど、人事戦略ですか。
 
今野
 
 
 
 
 
 
 
ですから、たとえば職能等級はいくつ以上必要だとか、仕事給と属人給の比率は何%でなければならないといった死体解剖学的に人事制度を構築し、運用が重いものを作っても何にもなりません。いくら制度が立派でも動かないのじゃ、まさに死体ですよ。
経営目的が違えば人事制度は違うでしょうし、事業規模によっても当然違ってくるでしょう。
 
繁田
 
 
経営戦略に基づいた、柔軟性のある制度でなければならないということですね。
 
今野
 
 
 
 
 
ただし、柔軟性といってもその制度には当然、客観性、公平性、そして納得性は必要です。
 しかし、特に中小企業の場合は人事の専門スタッフが不足していますから、この制度は自分たちで運用していけるかといった点を十分考慮する必要があります。
 
繁田
 
 
 
うーん。もう一度原点に返り、自分は会社をどうしていきたいか考えてみなければなりませんね。
 
                             (板谷 聡)



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