モノづくりの未来と社員教育 (2001年3月)

(社) 中小企業診断協会富山県支部


今野 繁田さん、何か困ったことがおありのようですね。
 
繁田 いやね。入社5年の若手が突然退職したいと言ってきましてね。これからという時でしたし、後釜がすぐに見つかる訳でもないので困ってるんですよ。
大体、やめてどうするんだと聞いたら、取り敢えずコンビニで働きながら考えるなんてね。計画性もないし、折角いままで身につけた知識や技能と全く関係ない仕事につくのは、本人のためにも、もったいない気がするんですが。
 
今野 なるほどね。人材不足の上に、若者の製造業離れということですか。いまどきの現象ですが、根深い問題ですね。
 
繁田 先生、景気のいい時に海外にどんどん工場をつくり、技術移転などもやりましたが、結局、日本の製造業は、自分で自分の首を絞めたということなんですか。
人件費ばかり高くて、技能・技術が並みのレベルじゃね。国も企業も、今世紀には破産するんじゃないかなんて、暗いですね。
 
今野 確かに、ヒト・モノ・カネ・情報のレベルが上がらないと競争力がつかないというのはわかりきった話ですが、じゃあ、具体的にどうするんだと言うと、何も対策が打てないというのが多いでしょう。
 
繁田 現実から逃げるわけではないんですが、結果として何もしていないことになる。ウチの会社は、社員が40才代後半以上と、20才代に分かれて、30才代がいないんです。
10年、20年先のことを考えると、ぞっとするし、ベテラン連中の持っている知識や技能を、誰にどう伝えていけばいいのか、CAD/CAMなどのデジタル技術やIT(情報技術)を現場にどのように導入して、これまでの技術と融合させていけばいいのか、問題は山積みです。
 
今野 社員の年齢構成がいびつなのも、最近の傾向ですね。要は、ベテランの職人的な技能と、新しい素材や技術に、敏感で自由な発想ができるはずの若手の能力とのマッチングが必要ですね。現場での仕事を通してしか伝えられないこともありますしね。
 
繁田 そうなんです。現場を知らずに図面を引いてもだめですし、逆に、図面を見てその意図を汲み取りながらモノをつくることが、今の若者にはできなくなっているんです。ベテランも今のままでは、いけませんが。
 
今野 デジタル化とか数値化が進めば、パソコンへのデータ入力とプログラミング技術だけで、精度の高い微細なモノづくりが可能な世の中になりつつあります。職人の頭の中や腕にあった高度な技能が、どんどん機械の中に置き換えられていってしまう。
 
繁田 やっぱり、ベテランも若手も勉強が必要ということですよね。
 
今野 と言うより、お互いが持っている知恵とか、ノウハウとかを共有する仕組みを作ることが必要です。
ナレッジ・マネジメントとか、学習する組織とか言われていますが、ベテラン、若手を問わず、社員が相互に学び合おうとする組織づくり、つまり、お互いの意思、能力、発想、思考などを尊重しながら、教え、教えられて、ヒトも会社も成長していく仕組みを考えなければならないんです。
 
繁田 例えば、どうすればいいんですか。
 
今野 新入社員や若手には、必ず基礎をしっかり教えることです。採用後、ろくに研修もせずに配属し、後は現場の先輩や上司の指導任せというケースがよくありますが、これでは計画性も継続性もないので、ヒトは育たないし、定着もしません。忙しいとか、面倒といった理由で、後回しにされてしまいます。集中的に、徹底的に、教えるべきは教え、叩き込むことです。
また、教えるべき内容や教え方も、ヒトによりばらばらではなく、教育訓練コースとして、独自のカリキュラムやテキストづくりまでできれば最高です。その際、ベテランに参画してもらって、体系化、文書化し、講師になってもらえれば、単なる知識の受け売りということもなくなります。
 
繁田 そりゃ、大変な労力ですよ。テマ・ヒマ・カネばかりかかる。
 
今野 でも、今やっておかないと、いつまでたってもできないことです。モノづくりの技能を伝え、維持していくことは、それだけでも大変なことですし、更に新しい技術を導入し、定着していくためには、ますますヒトを育てていく仕組みや、教育訓練は重要です。
 
繁田 待ったなしのヒトづくりですか。資金の手当ても待ったなしなんですがね。職人というのは、字を書くのが苦手なんですが、よく話をして、協力するよう頼んでみます。

(中小企業診断士/羽田野 正博)



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